hot
{{detailCtrl.mainImageIndex + 1}}/1

【上演台本】匣の階上演台本(60分6人)『パノラマビールの夜』

1,000円

送料についてはこちら

<台本抜粋> 旅人 …遠く離れた二つの町がありました。 うっかりすれば遠くにあることさえ忘れてしまうほど、 二つの町は遠いのでした。 あんまりに遠いものですから、道は途中で足りなくなって途絶えていました。 互いの町を行き来する手段は何もありませんでした。 いつの頃からだったでしょうか。 互いの町がちゃんと遠くにあることを忘れないでいるために、 二つの町は夜になると小さく灯かりを点すようになりました。 女、手を止め、思わず聞き入っている。 旅人 夜になるとどちらの町も新しい灯かりを点し、遠くの灯かりを眺めるのでした。 どちらの町も、何があっても灯かりを絶やさないように注意していました。 灯かりを点しておくと、「寂しく」なくなるような気がしたのですが、 それが自分の町のためになのか、遠くの町のためになのか、よく分かりませんでした。 長い時間が過ぎました。 ふたつの町はとても大きく、明るくなりました。 もう、町には闇がなくなりました。 お互いの灯かりは町の中まで届かなくなりました。 いつしか二つの町は遠くの町のことを思い出さなくなりました。 自分の町を十分に自分の灯かりで照らせるようになったのです。 町は幸せでした。遠くの町も幸せでした。 長い時間が過ぎました……… …あるとき。困ったことが起きました。 一つの町が壊れてしまったのです。 町は闇の中に沈み込んでしまいました。 壊れた町は狼狽えました。 こんなに深い闇の中で、一体どっちを向いて何を見ればいいのかわかりませんでした。 誰かが、ふと遠くを見ました。遠くに灯かりが見えました。大きな灯かりでした。 壊れた町は不思議な気持ちで灯かりを見上げていました。 いったい何の灯かりなのかはわかりませんでした。誰も、覚えていませんでした。 遠くに町があることを。もう誰も覚えていませんでした。 分からなくても灯かりが見えました。覚えていなくても灯かりが見えました。 大きな灯かりでした。 なんだかわからないけれど、それはとても懐かしくて、親しい灯かりのような気がしました。 遠くの町は遠くにあるものですから、何も知りませんでした。 遠くに町があることも、遠くの町が壊れてしまったことも、向こうの町が自分の町の灯かりを見上げていることも、ちっとも知りませんでした。 壊れていない町はいつものように暮らしていました。 毎日夜になると新しい灯かりを点して自分の町を包んでいました。 もう、寂しいとは思いませんでした。 どちらの町も、もう、寂しいとは思いませんでした。

セール中のアイテム