
作:久野那美
<台本冒頭>
長い長い道。
地平線を超えて。
この先はどこへ続いているのだろう?
そしてどこから続いてきたのだろう?
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広い空の下。
時折小鳥が上空を通り過ぎていく。
日を遮るものが何もない中、ぽつんと小さな屋根がある。
ひざのすり切れたズボンをはいた女がひとり、立っている。
歌を歌っている。
車が一台、通りかかる。
男 すいません・・・
女 (歌うのをやめて)あ。いらっしゃい。ガソリンですか?
車の窓が開く。顔を出したのは、疲れきった顔をした男・・
男 あのここは?
女 見ての通り。給油所です。
男 なんでこんなとこに?
女 こんなところに、給油所があってよかったでしょう。
男 まあ・・。
女、手を出す。
男 ああ(ポケットからコインを取り出し、女に渡す)
女 (ぷしゅーっ、どくどくどく。ガソリンを注ぎ込む。)
男 (あたりを見回して)こんなとこに給油所があるなんて。聞いてない・・
女 誰に?
男 ・・・・誰にも。
女 へえ。
男 何?
女 まあ特に宣伝もしてないし。
男 誰も知らないの?
女 (笑って)誰も知らないかどうかは私にはわかりません。
男 ・・・そうだけど・・・なぜ宣伝しないの?
女 どこに宣伝するの?
男 ・・・・
女 知りたい人が調べればいいじゃないですか。
男 ?
女 ここに給油所があるかどうか知りたい人が。
男 あるのかどうかわからないもののことをどうやって調べるんです?
女 へんなこと言いますね。給油所が必要なひとを探して宣伝するより、給油所が必要なひとが必要な給油所を探してチェックする方がずっと簡単だし早いし現実的じゃないですか。
男 えっと・・
女 途中でガスなくなったらどうするつもりだったんです?
男 あ・・
女 なんとかなると思ってたんでしょ。なんとかなるって、つまりこういうことでしょ
男 ・・・・
女 それとも、どうにもならない予定だったんですか?
男 なにそれ。
女 なんとかなってよかったじゃないですか。
男・・・・・
鳥の声が聞こえる