
作:久野那美
第4回テアトロ・イン・キャビン戯曲賞佳作受賞
<台本冒頭>
銀河。真夜中の静寂に小さな駅舎がひっそりと眠っている。
やがてベルの音。列車がゆっくりと通過する—
1
プラットホームにぶらっと腰掛けているA。
荷物を脇に線路をぼんやりとみつめ、牛乳を飲んでいる。
大きなびんには真っ白い牛乳がたっぷりと入っている。
やがてBが歌いながらやってくる。
B いつもいつも 通る夜汽車 静かな… ん んん んんん ん んん ん んん んん んんんん…
B、先客がいるのを見て、ぎょっとして黙る。
A、奇妙に微笑みかける。
B、笑ってごまかす。
A どうぞ。
B あ、はい。(反対側の端へ避ける。ベンチは意外と長いのだ。)
Aは相変わらずぐびぐびと牛乳を飲んでいる。
どきどきしながら線路の彼方を見る。落ち着かない、B。
A あの…。(向うの端にいるBに呼び掛ける。)
B え?はい。
A 待ってます?(何故か小声で)
B え?
A 汽車。・・・・・・汽車、待ってますか?
B はい。だってここは駅でしょ。
A そうです。ここは、駅です。
B ・・・・・・・?
A ですけどね。待ってても、汽車、来ませんよ。
B え……?!
A ついさっき来て、出て行ってしまいました。 残念でしたね。
B ・・・ってそんな…。どうして?
A どうしてって…ここ駅舎ですからね。汽車は、来たら出ます。
どうですか?一杯・・
B …え?
牛乳をBにつぐA。おおきなコップにたっぷりと・・
B これ…
A 牛乳です。
B ぎゅう…
A 嫌いですか?
B いえ。
A どうぞ。ご遠慮なく。たくさんありますから。
B …。(仕方なく、飲むB)
A 角砂糖をいれますか?
B いいえ、このままで。どうも…。
とりあえず、並んで牛乳を飲む二人…
しばらく・・・
B あの。
A はい。
B どうして?
A ?
B どうして、出ちゃったんですか? 汽車…。
A 駅舎ですから。汽車は来たら出ます。
B 乗れないと困るんです。
A でもあなたのために走ってるわけじゃないし。
B ・・・・・・・