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2018年1月 神戸アートビレッジセンター 匣の階公演映像
第5回OMS戯曲賞佳作入選
関西Best Act2018上半期作品部門1位
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舞台は山頂の展望台にある寂れたビヤガーデン。 その日の真夜中過ぎに、ある星が壊れてなくなってしまうのだという。
それを見に集まってきた天文学研究会のメンバーとたまたま通りかかった旅人、ビヤガーデンの女店主が寒空 にビールを飲みながら語り合う。
各々の記憶の中にある各々の「壊れた町」が交差する。
それは混じり合うことなくそのまま各々の方向へ消えていく。
「何ひとつ共有できないもの同士も、一瞬だけ、一点で交差することはできるのではないか。」
そんなことを思うかもしれない冬の一夜の物語。
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「遠く離れた二つの町がありました。
互いの町を行き来する手段は何もありませんでした。
いつの頃からだったでしょうか。
互いの町がちゃんと遠くにあることを忘れないでいるために、
二つの町は夜になると小さく灯かりを点すようになりました。
夜になるとどちらの町も新しい灯かりを点し、遠くの灯かりを眺めるのでした。
ふたつの町はとても大きく、明るくなりました。
町には闇がなくなりました。
いつしか二つの町は遠くの町のことを思い出さなくなりました。
自分の町を十分に自分の灯かりで照らせるようになったのです。
あるとき…… 困ったことが、起きました。
一つの町が壊れてしまったのです。
町は闇の中に沈み込んでしまいました。
壊れた町は狼狽えました。
誰かが、ふと遠くを見ました。遠くに灯かりが見えました。
いったい何の灯かりなのか。誰も、覚えていませんでした。
分からなくても灯かりが見えました。覚えていなくても灯かりが見えました。
それはとても懐かしくて、親しい灯かりのような気がしました。
遠くの町は遠くにあるものですから、何も知りませんでした。
壊れていない町はいつものように暮らしていました。
毎日夜になると新しい灯かりを点して自分の町を包んでいました。
もう、寂しいとは思いませんでした。
どちらの町も、もう、寂しいとは思いませんでした。
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脚本・演出:久野那美
出演:
人形・展望台の女:大西智子(あなざーわーくす)
旅人:七井悠(劇団飛び道具) 天文学研究会:
会長Q:チェサン
P:中村彩乃(安住の地/劇団飛び道具)
R:藤谷以優
L:練間沙
舞台監督:中西隆雄/ 照明:葛西健一 / 音響:合田加代 /演出助手:プリン松・吉村篤生(劇の虫)/ 舞台監督助手:小林佳太郎 / 美術:竹腰かなこ / 制作:若旦那家康